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2017年春号

外科医のイメージ
医学生と外科医で大きなギャップ

「外科医のイメージ」について医学生と外科医のギャップを示した論文1)が日本臨床外科学会誌で発表されました。著者のお一人である大分大学長・北野正剛先生に、論文の内容を踏まえて、医学生・若手医師が外科医をどのように捉えているのか、若手外科医を増やすためにどのような取り組みをしているのかを伺いました。

日本臨床外科学会誌論文「アンケート調査による外科医に対するイメージ―外科医と医学生の相違―」1)を執筆することになった経緯を教えてください。

北野 医学生や若い医師の外科医志望者の減少が問題になっています。そこで、医学生がもつ外科医に対するイメージがどのようなものか、それが外科医自身のもつイメージとどのように異なるかを調べることで、医学生の外科医志望者が減少している理由が明らかにできるだろうと考えて、筆頭著者の大分大学地域医療センター外科分野上田貴威医師を中心に調査を進めました。

調査対象はどのような人たちだったのでしょうか?

北野 大分大学に在籍する医学生(4-6年生)計286名と、大分大学と大分県外科医会所属の48施設に勤務する外科医師総数232名です。「外科医へのイメージ」や「外科キャリアと外科教育に対するイメージ」などについて49項目からなるアンケートを実施しました。

回答率はどのくらいでしたか?

北野 効回答者数は、医学生260名、回答率91%、外科医213名、回答率93%でした。

表1 「外科医へのイメージ」医学生と外科医の比較

とても高い回答率ですね。先生方のご尽力の賜物だと思います。調査結果はどうでしたか?

北野 「外科医へのイメージ」について、医学生と外科医の間には大きく3つのギャップがみられました。まず、医学生は外科医に比べて、外科医の仕事を「きつい」「危険」と思っている割合が高くなっていました。次に、外科医のやりがいについての項目では、「外科医は達成感・充実感がある」と答えた割合は、医学生は外科医に比べて少ない結果でした。一方で、外科医の将来性については、外科医が思っている以上に、医学生が外科医の将来性を感じていると答えていました。(表1)

興味深い結果です。医学生は、外科医に対してキツさや満足感が低いというイメージをもっているにもかかわらず、外科医の将来性については外科医以上に感じているということでしょうか。

北野 はい。ただ、外科医の仕事に関しては、医学生が思っているほど、現役の外科医はキツさや危険は感じていないということでもあります。また、「外科系進路を考えるか」という質問では臨床実習の前後で有意な差がみられました。臨床実習前の医学生と比べて、臨床実習後の医学生は外科系進路を考える割合が増加し、臨床実習が外科選択の動機に対してポジティブに影響していることが示されました。(表2)

表2 医学生に対する「進路は外科系を考えるか」

 外科医は手術が契機になって、患者さんが元気になっていくので、臨床実習でそれを目の当たりにすることが、外科の醍醐味を知ってもらう第一歩だと思います。

さきほど外科の仕事を危険だと思う割合が医学生で高いという結果がありましたが、医療訴訟リスクについては、どのように扱われるべきだと考えますか?

北野 外科学会のアンケート調査でも、約1割の外科医が医療訴訟を経験しているという結果がありました。医療訴訟リスクは手術を続けていくかぎり、ゼロにはなりません。しかし、情報がきちんと上がってくれば、しっかりとした法的な対応を行っていくことができます。また、裁判をおこさないための取り組みも重要です。日頃から患者さんの状況を把握し、きちんと対応することが訴訟発生を減らすことにもつながります。例えば、手術の延長や緊急患者対応による予定変更をしないといけなくなったときに、患者さんに説明の電話を一本入れることで信頼関係を維持できます。医師が不在の理由も明示しておくことで、安心感を与えることができます。

患者さんに対しても、職員に対しても、日々のコミュニケーションをこまめにとることで、外科医の「危険」も避けることができるということですね。
論文の中でもありましたが、調査対象の外科医と医学生では、女性の割合が大きく異なっています。今後、女性外科医が増えていくと思いますが、女性外科医のキャリア形成についてはどのようにお考えでしょうか?

北野 おっしゃるとおり、女性外科医は増えている印象があります。女性医師の場合、妊娠や出産などでキャリアが一時的に途切れることはありますが、外科医として働き方のバリエーションは様々であっていいと思っています。たとえ1年2年休んだからと言って、キャリアが永続的に途切れないような仕組みをつくりたいと思っています。もちろん、領域によっては体力的な厳しさや長時間の拘束を要するものもあります。それは、医師自身のめざす方向性やそれに伴う大変さを許容できるかどうかで決めていければいいでしょう。これは女性医師だけでなく、男性医師にも言えることですね。

先生は40年前に医師になって外科医の道に進んでいらっしゃいますが、40年前と現在の若手医師のちがいについてお感じになっていることを教えてください。

北野 私自身が若い頃は「良い外科医になりたい」以外にあまり考えていなかったですね。大変なことはそれなりにありましたが、不満も感じていなかったように思います。しかし、今の若手医師はちがいます。専門医制度ができたこともあり、「きちんとした形のトレーニングを受けたい」「キャリアの流れを知りたい」という志向がふえています。オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)だけでなく、シミュレーションやウェットラボのような実務外での教育も必要とされています。指導する私たちとしては、彼ら一人ひとりが評価される医師になるように環境を整えていかなければならないと考えています。

先生のお話を伺っていると、外科医教育は、OJT中心の“従来の徒弟制度”から、“新しい育成制度”に変わってきていると感じます。最後にぜひ若手医師へのメッセージをお願いします。

北野 創意工夫をして目の前のことに真剣に取り組んでください。そうすれば、たとえ今すぐに役に立たなくても将来的に役に立ちます。スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチのように、点と点はいずれ必ずつながります。

ありがとうございました。

1) 上田貴威 , 北野正剛ら:アンケート調査による外科医に対するイメージ―外科医と医学生の相違―. 日臨外会誌 .2014;75(4):873-879.

プロフィール

北野 正剛  大分大学 学長
専門領域:消化器外科、内視鏡外科、消化器内視鏡

経歴はこちら

経歴:
昭和51年 6月九州大学医学部附属病院 医員(第二外科)
昭和56年 4月福岡市立第一病院(外科)
昭和56年10月国立療養所福岡東病院(外科)
昭和58年 5月ケープタウン大学(外科 Senior consultant doctor)
昭和63年10月九州大学医学部附属病院 講師(第二外科)
平成 2年 4月済生会八幡総合病院(外科部長)
平成 4年 5月九州大学医学部附属病院 講師(第二外科)
平成 5年 5月大分医科大学医学部 助教授(外科学講座第一)(科長代行)
平成 8年 4月大分医科大学医学部 教授(外科学講座第一)
平成15年10月大分大学医学部 教授(外科学講座第一)(統合のため名称変更)
平成23年10月大分大学長

Seminar Report

きみ外科セミナー in宮崎

 2016年11月19日、フェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎県宮崎市)にて、第10回きみが外科医になる日セミナーが開催されました。高校生から医学生まで100人を超える参加者を前に、日々臨床に携わる外科医たちが、外科の多面的な魅力を語りました。


「風に立つライオン」モデルの医師が「外科医の心」について強調

 今回は、歌手のさだまさし氏の曲「風に立つライオン」のモデルで、ケニアに派遣され医療に携わった宮崎県出身の外科医、柴田紘一郎氏(元・宮崎大学第二外科助教授)が登壇。「ケニアに行ったときは医師が3人しかおらず、2年で4000例ほど手術をした。やるしかなくてやっていたが、本当に勉強になった」と当時の経験を話しました。

 また、現在ケニアの治安の悪い地域で働く女性医師に柴田氏が「怖くはないのですか?」と聞くと、「患者は助けを求めてやってくる。医師に危害を加えようといった気持ちがないことは伝わってくる。医師と患者の信頼関係とはそういうもの」と言われたことを挙げ、「医師と患者の心がつながれば、医療訴訟もなくなる。外科の技術以上に、患者に希望を与える話し方や態度など、心を大切にする外科医になってほしい」と強調しました。

 続いて、同曲の作詞・作曲、小説化を手掛けたさだまさし氏がビデオレターで登場。「外科医になりたい若手医師が減っているのは、日本への大きな打撃となる。ぜひ、未来の“神の手”を目指していただきたい」と来場者にメッセージを送りました。


ワンパターンではない外科医のキャリア登壇者たちが多面的に紹介

 会の後半では、宮崎県出身で、現在は榊原記念病院心臓血管外科主任部長として年間500例以上の小児心臓血管外科手術を行う高橋幸宏氏(同院副院長)が、自身のキャリアと職場の人間関係のマネジメント方法について語りました。

 また、「もし大学病院の外科医がビジネス書を読んだら」(中外医学社、2013年)の著書である海道利実氏(京都大学肝胆膵移植外科・臓器移植医療部准教授)が、常に学び続けるための極意や手術の指導方針についてレクチャー。その他の登壇者も、外科医の1日のスケジュールを示しながら現場の医師のリアルな日常を紹介したり、女性外科医のキャリアの紹介、最新の術式や機器の紹介から外科の魅力を説くなど、盛りだくさんの会となり、盛況の内に幕を閉じました。