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2017年夏号

今号の内容

女性医師支援の最前線――
「All or None」克服に向けて

NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』の舞台のモデルとなった「帝国女子医学専門学校」を前身とする、学校法人東邦大学。同大学附属病院では、女性医師の支援に向けて数多くの先駆的な取り組みが行われています。その内容と意義、そして将来の展望について、理事長の炭山嘉伸先生にお話をうかがいました。

Perspective
ビジョン検討会は医師の働き方への“メス"になり得るのか?

2017年4月に公開された厚労省の「医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」を、検討会構成員の一人である裵 英洙氏が解説する。

女性医師支援の最前線――

「All or None」克服に向けて

NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』の舞台のモデルとなった「帝国女子医学専門学校」を前身とする、学校法人東邦大学。同大学附属病院では、女性医師の支援に向けて数多くの先駆的な取り組みが行われています。
その内容と意義、そして将来の展望について、理事長の炭山嘉伸先生にお話をうかがいました。

東邦大学は創立90年以上の伝統ある学校ですが、女性支援に関しても長い歴史をお持ちなのでしょうか。

炭山(敬称略)はい。実は本学の創設そのものが、女性支援の志のもとになされています。創立者の額田豊医師は若き日にドイツに留学した際、現地の女性研究者が家庭と両立させつつ生き生きと働く姿に感銘を受けて、女性教育を志しました。以降、女性を育成・応援する姿勢は一貫した本学の特色となっています。1970年には東邦大学大森病院に勤務する医師や看護師のための「東邦大学保育園」が開設されましたが、これも時代に先駆けた取り組みだったと言えるでしょう。

そして現在も、女性医師支援に関して時代の先端を行く施策に取り組まれていますが、その基本方針についてお聞かせください。

炭山 女性の就業に関してかねてから問題となってきたのが「All or None」と言う状況です。結婚、出産、育児といったライフイベントに際し、女性には「働けるか、働けなくなるか」の二つしか道がなかったのです。それに対し、本学は「AllでもNoneでもない選択肢を提供しよう」という考えに基づいて支援を行っています。

家庭との両立が可能な働き方をつくりだす、ということでしょうか。

炭山 その通りです。たとえば2010年に設立された病児保育室「ひまわり」は、病院に勤務するスタッフが、子供が病気になったときに出勤できなくなる「None」を防ぐために開設されたものです。病院に併設されたこの保育室に子供を預ければ、出勤することが可能です。施設内は感染症の子供とそうでない子供を別々にケアする構造になっており、医師や看護師が常駐して治療や看護にあたります。もしその範囲で対応できないほどの重症であれば、即病院に運ぶこともできます。

そこまで万全の態勢が組まれていれば、子供の急病に際しても安心して仕事に専念できますね。

炭山 「ひまわり」が突発的な事態への対応策だとすれば、より長いスパンの支援として挙げられるのが「准修練医制度」です。これは出産・育児で常勤が困難な女性医学研究者に、週3.5日の勤務という選択肢を提供するものです。修練期間の算定は修練医の2分の1で、5年間勤務すれば、修練医として2年半勤務したのと同等と見なされます。また、研究者を対象とした「研究活動支援員派遣制度」もあります。年間20万円を人件費として提供し、研究を支援する補助者の給与に充てることができる制度です。人的サポートを得ることで、育児等と研究活動の両立が可能となります。

出産や育児によるブランクの後、現場復帰に不安を覚えて退職してしまう女性がどの業界にも多く見られます。この両制度のように「細く長く」仕事を継続できる選択肢があれば、中途リタイアも防げるでしょうか。

炭山 そうですね。これらは女性が定年まで仕事を続ける道をつなぐ支援策とも言えます。その観点で言いますと、両制度は育児のみならず「介護」にも適用されるのが大きな特徴です。介護離職者の増加が問題視されていることからもわかるように、介護の必要が生じやすい40代以降にもキャリア中断の危機は訪れます。この局面を乗り切るための支援に対するニーズは、今後ますます高まるでしょう。事実、直近3年間で「准修練医制度」の適用を受けた32名のうち5名は、介護をきっかけにこの制度を利用しています。

社会の変化に応じて、幅広い視野で対応されていることがわかります。

炭山 広い視野と言えば、全ての制度を「男性も利用できる」という点も挙げられます。女性の活躍には男性の理解と、男性が積極的に家庭の運営に携われる環境づくりが必須だと我々は考えます。ちなみに本学における女性支援は「女性医師支援室」という拠点からスタートし、その後「男女共同参画推進センター」へと拡張され、さらに今年、「ダイバーシティ推進センター」に名称変更しました。この変遷も、様々な課題を女性だけではなく「皆の問題」として捉える意識を喚起したい、という姿勢の反映です。

皆の問題ということは、育児や介護に携わる当事者以外に向けても意識向上を図ることが必要でしょうか。

炭山 まさにそうです。ダイバーシティ推進のカギは、次代を担う人々が握っています。そこで本学では医学部の学生に向けて講座を開き、女性支援の取り組みと意義を伝えています。ここで学んだ若い人々が医師となったとき、女性医師と男性医師の協力体制がさらに緊密になっていくことを願っています。加えて、「キャリアとプライベート双方の充実が可能な未来」を示すことで、医師を目指す若者が増えることも望んでいます。これはすでに本学への志願者の増加という形で、年々実現しています。

明るい未来を示すことで、医師の働く環境に対するイメージの向上も目指したいところですが……。

炭山 確かに重要な課題ですね。多くの企業や組織が「働き方改革」を推進する中、医療機関での浸透はまだまだ進んでいないのが現状です。医師という職業に「多忙かつ重労働」というイメージを抱く人は多く、とくに外科医にはその傾向が顕著です。かく言う私自身、若いころは外科医として昼も夜もなく働き、何日も病院に泊まり込んだものです。それでも「患者さんの身体に直接かかわり、命を助ける仕事」への使命感で乗り切ってきました。当時の外科医のほとんどは、こうした使命感ひとつを頼りに、「滅私奉公」的な働き方をするのが常でした。結果、家庭のことを後回しにしてしまった医師が、私を含めて大勢いたと思います。

そのような働き方は、今や時代にそぐわなくなっている、と考えられますか?

東邦大学大森病院における女性支援制度および施設

炭山 はい。若い人はそんな働き方を受け入れることはできないでしょうし、我々も押し付けてはいけません。ワークライフバランスの重要性が叫ばれる昨今、医師の世界だけが滅私奉公の文化を保持するのはナンセンスです。女性医師をはじめ、医学に携わるすべての人が自らの人生全体を充実させていける基盤を整えること、それが日本の医療の未来を拓くと考えています。本学の取り組みがその流れの先導役となれれば、これほど嬉しいことはありません。

――ありがとうございました。

写真:炭山 嘉伸先生

炭山 嘉伸先生

学校法人東邦大学 理事長

昭和17年7月生れ

【略歴】
昭和45年東邦大学医学部卒業。
昭和56~58年①ハワイ大学・クィーンズメディカルセンター ②スタンフォード大学・メディカルセンター③メイヨークリニックへ留学。
昭和62年東邦大学医学部外科学第三講座教授
平成15年東邦大学医療センター大橋病院長
平成20年東邦大学名誉教授を経て、現在、学校法人東邦大学理事長、日本外科感染症学会理事長、日本臨床外科学会副会長、日本私立医科大学協会副会長、日本ワックスマン財団評議員、医学教育振興財団監事。

Perspective

ビジョン検討会は医師の働き方への“メス"になり得るのか?

2017年4月に公開された厚労省の「医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」を、検討会構成員の一人である裵 英洙氏が解説する。

厚生労働省「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長:渋谷健司東京大学大学院教授、以下、ビジョン検討会)は、新たな医療のあり方とそれを踏まえた医師・看護師等の働き方や人材確保に関する骨太な方向性を検討するために設置されました。

高齢化に伴う患者数増加と需要の多様化、プライマリ・ケア対応への遅れ、IT等の科学技術の変化など、日本の医療環境は大きく変わろうとしています。日本が「健康先進国」でいるためには、医療職の働き方改革を実施しなければ未来はないという共通認識のもとでの議論が続けられました。これまでは、質の高い医療が広く届けられるために、医療現場の個々人の努力、ある意味、自己犠牲によって支えられてきました。報告書の発表記者会見では、渋谷健司座長は「現状にメスを入れる形で、あるべき医療のあり方を踏まえた働き方のビジョンを示した。医師が疲弊することなく、プロフェッショナリズムを発揮できる環境を整える必要がある」ことを強調しました。また、ビジョン検討会の議論と併せて、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(10万人医師調査)を実施。「医師の44%が、今後、地方(東京23区および政令指定都市、県庁所在地などの都市部以外)で勤務する意思がある」などの結果が示されました。「医師は地方に行きたがらない」という世の中の印象を覆すような、医師の地域偏在の現状を考える上で示唆に富む結果も注目されています。

2017年4月6日に発表された報告書では、特に、下記の点にフォーカスしています。

  1. 柔軟な医療従事者の働き方:医療職が柔軟にキャリア選択を出来るようにする
  2. 地域主体での医療リソースの最適化:地域主体で限られた医療リソースを決めるような権限と仕組みを構築する
  3. IT等のテクノロジーの最大活用:IT等を積極的に応用することで、医療職が本当にすべき仕事に集中できる環境を創る
  4. タスクシフト・タスクシェアの推進:既存の職種の枠組みを超えて、仕事の領域を広げられるようにする

これまでの先人たちの取り組みを評価しつつ、新たな視点でこれからの医療情勢に併せた今後の医療職の働き方の方向性を定めていくことを目指しています。医療を取り巻く激動の環境変化に対応すべく、医療職の働き方を起爆剤に、これからは日本の医療を関係者全員が真剣に考えていく時代になってきているのです。

写真:裵 英洙 先生

裵 英洙

病院経営コンサルティング会社
ハイズ株式会社 代表取締役社長
(医師・医学博士医・MBA)

高知大学医学部客員教授

専門領域:医療経営、ヘルスケアビジネス戦略

【略歴】
平成10年4月金沢大学医学部附属病院 第一外科(現:心肺総合外科)
平成19年4月公益財団法人 健康予防医学財団 理事 就任 ※現在に至る
平成21年3月慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了
平成21年3月メディファーム株式会社 代表取締役 就任
平成26年10月ハイズ株式会社 代表取締役 就任 ※現在に至る
平成28年3月株式会社ケアネット 社外監査役 就任 ※現在に至る
平成29年4月高知大学医学部客員教授 就任 ※現在に至る