志、未来へ繋ぎたい 皆様と共に行動を起こし、この危機を解決し日本の健康に貢献したいと願っています。

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2018年夏号

今号の内容

CENS 市民公開講座を開催―
がん・心臓病治療の最前線と課題
医師・行政・患者の立場から語られる外科医療の現在

2018年5月19日、東京国際フォーラムにて市民公開講座「外科医があなたをがん・心臓病から救う~名医に聞く、外科医療の最前線~」を開催しました。日本人の死因第1位のがん・第2位の心臓病と向き合う医療現場の最新情報を伝えつつ、そこに携わる外科医の環境について理解を広めることを目的とした講座です。

CENS 市民公開講座を開催―
がん・心臓病治療の最前線と課題
医師・行政・患者の立場から語られる外科医療の現在

外科医減少の現状を市民に伝える

2018年5月19日、東京国際フォーラムにて市民公開講座「外科医があなたをがん・心臓病から救う~名医に聞く、外科医療の最前線~」を開催しました。日本人の死因第1位のがん・第2位の心臓病と向き合う医療現場の最新情報を伝えつつ、そこに携わる外科医の環境について理解を広めることを目的とした講座です。

会場に設営された500席はほぼ満席になりました。来場者の顔ぶれは老若男女さまざまで、幅広い年代の方々がこのテーマに関心を持ち、ときにこれらの病と戦っていることをうかがわせました。

ジャーナリストの福島敦子氏の進行に従い、冒頭に松本晃理事長から開会の辞が述べられました。最も強く伝えられたのは、「外科医志望者減少の実情」でした。過酷な勤務状況とそれに見合わない報酬、訴訟リスクなどの要因により、外科医を志す若者が躊躇を覚える現状を訴えました。

次いで挨拶に立たれた加藤勝信厚生労働大臣もこの現状に触れつつ、解決に向けた行政の施策を紹介しました。医師の負担軽減に向けたタスクシフティングの推進や、医師偏在対策として、都道府県が診療科ごとに医師の必要数を予測して医師志望者と情報共有するシステムづくりなどについて伝えられました。

医師・患者双方が語った「最新の外科医療」

基調講演には、慶應大学名誉教授の北島政樹先生が登壇しました。過去の「大きく切って全部取り出す」外科手術から、小さく切って病巣のみを取り出す「患者に優しい」手術への変遷を概観し、それを可能にする医療機器の最前線を紹介しました。手術支援ロボット「ダヴィンチ」をはじめ最新技術の精密さが映像とともに示される一方、東洋医学の知恵が現代医療に及ぼす成果も語られました。

こうした進歩を患者側の視点から語ったのは、野田聖子総務大臣と、日本対がん協会常務理事の関原健夫氏です。
 野田大臣のご子息は重度の気管軟化症等多数の疾患を抱えて誕生するも、10回の大手術を経て、7歳の現在は元気に小学校に通えるまでになりました。また現在72歳の関原氏は40年前の大腸がんを皮切りに肝転移・肺転移で6回、心臓疾患で3回の手術を経て生還した“最強のサバイバー”としての経験を語りました。

両氏ともに口をそろえたのは、外科医の存在なくしては助からない命だったということです。数年前であればご子息を救う技術はなかったと野田大臣は語り、米国駐在中に発病した関原氏は、日本の国民皆保険制度がいかに生還の確率を高めているかを強調しました。

衆議院議員・鴨下一郎先生講演
皆保険制度を守りつつ、外科医の労に報いたい

――「外科医が安心して医療を行えるための環境整備」と題した特別講演では、心療内科医の顔も持つ衆議院議員・鴨下一郎先生が登壇。年金・社会保障関係を得意分野として活躍される立場から、外科医減少の解決に向けた展望を語っていただきました。

インセンティブと医療ツーリズムを解決の糸口に

本日、お話しくださる外科医の先生方はいずれも「ゴッドハンド」と称される、素晴らしい技術の持ち主ですが、この技術を継ぐ若い方々が減少しているという現状があります。

また、社会保障給付費の増大も深刻な課題です。現在総計約150兆円、国家予算をゆうに超える額です。医療費はそのうち42兆円。団塊の世代が75歳を迎える2025年以降になれば50兆円を超えるでしょう。

しかし、解決のために国民負担を増やすことだけは避けなくてはなりません。国民皆保険制度があってこそ、誰もが平等に医療を受けられるのです。そのシステムを崩さずいかに現場を支えるか、外科医の方々に報いられるかが問題です。

外科医の勤務環境は過酷で、かつ訴訟沙汰になるケースもあります。その苦労とリスクに見合うだけの報酬が得られないのも実情です。「同じ報酬ならばもっと楽な診療科へ」と考える人が多いのも無理のないところです。

外科技術の「日本ブランド」を生かす

そこで考えられる対策はまず、インセンティブ制の導入です。卓越した技術や理論を持つ医師にかかる際はプラスαの診療費を払う、というしくみで労に報いられれば、そうした外科医を目指そう、という若者の意欲が喚起されるでしょう。

もちろん、裕福でなければ優れた治療を受けられない不平等は避けなくてはなりません。しかし保険適用が必須とは言えない診療を見極める「評価療養」の視点は不可欠です。アンチエイジング医療等なら、給付の対象外にすることは可能でしょう。

次いで注目すべきは「医療ツーリズム」です。現在、年間3000万人近くに上る訪日外国人の中には、人間ドックや手術を目的とする方々も大勢います。世界トップレベルの日本の医療がひとつのブランドになっているのです。それを求める外国人は、王族など、富裕層が中心です。そうした方々の診療費を医師の報酬や社会保障費へと還元するのも1つの方法でしょう。

こうして外科医のモチベーションを後押しするのが、我々の仕事です。「憂い行動する会」の名の通り、今後も行動し続けなくてはならない、と思っています。

慶應義塾大学病院 病院長 北川雄光先生・
順天堂大学医学部付属順天堂医院院長
天野篤先生 講演

――がん治療の分野からは、国際食道疾患会議会長を務める食道外科の第一人者・北川雄光先生、心臓病治療の分野からは天皇陛下の執刀医として知られる天野篤先生が登壇。それぞれの最前線と、未来への展望を語りました。

早期発見で、傷も痛みも小さい手術を―
北川雄光先生

がん本体と、転移するリンパ節を根こそぎ取る「大きな手術」を必要としてきたがん手術。今もその原則は変わっていませんが、医療機器の進化により、早期がんならば腹腔鏡・胸腔鏡を使った「小さな手術」が可能となりました。

慶應大学の手術室では「8K3D画像」を導入しており、肉眼をはるかに超える精密度で患部を見られるほか、臓器内を再現・ナビゲーションする画像も見られます。

「見張りリンパ節」の観察による術野の限定もできます。原発巣から最初に転移するリンパ節を内視鏡で探し出し、その部分だけ切り取って生検に回し、転移がなければ大きく切らずに済みます。

もちろん「大きな手術」の技術も進歩しています。進行がん・難治がんに対抗すべく、外科医は日夜鍛錬しています。免疫療法や、遺伝子解析で一人ひとりに適した治療ができるゲノム療法など、新たな治療法も開発されつつあります。しかし、皆さんに強くお勧めしたいのはやはり早期発見です。負担の少ない治療で早く回復し、その後の人生を豊かに送っていただくことを願っています。

「現場を肌で感じること」が次代の志を育てる―
天野篤先生

心臓にはさまざまな病気がありますが、手術が必要になるのは、このままでは心不全を起こすことが明らかなケースです。また、日常生活に支障をきたす場合も手術で対応します。

大動脈弁狭窄症の場合、開胸して人工弁を入れます。持病等のリスクがあれば大腿動脈からカテーテルを入れて心臓まで進めて弁をはめ込みます。この方法なら1時間で手術終了、その日中に歩けるレベルまで回復します。

一方、バイパス手術は2㎜の血管を極細の糸で10ヵ所程度縫う精密な技ですが、熟練医なら1ヵ所10分程度で縫合します。こちらも同じくその日中に歩けるようになります。

その後も心臓機能が低下しないこと、合併症が出ないこと、生活が術前より快適になることが成功の条件です。高難度かつ責任重大な仕事なのです。

そのためか、外科医は近年敬遠されている模様です。その対策は、現場を見せることだと思います。当院では毎年、医学部志望の高校生を募って5日間の病院体験を行います。今年は12名の参加者全員が外科医を目指すと答えてくれました。現場を肌で感じることによって、覚悟と志の双方が、定まっていくのではないでしょうか。