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2019年冬号

今号の内容

インタビュー
ビッグデータに成長したNCDの最新事情に迫る

2011年の運用開始から9年目に入った手術データベース「National Clinical Database」(以下、NCD)。国内で実施された手術・治療・剖検情報を収集し、国内で発生している疾患の種類や発生数、患者数、術後経過など臨床現場の医療情報を体系的に把握することができます。最新の症例データの登録状況と利活用の具体例、さらには医療現場へのインパクトと今後の展望についてNCD代表理事の岩中督先生に伺いました。

Perspective
医師の残業上限時間規制案、「年間1900~2000時間」提示

医師の働き方に関する改革検討会の議論が大詰めを迎えている。提示された医師の残業時間の規制案の内容とは?

ビッグデータに成長した
NCD の最新事情に迫る

2011年の運用開始から9年目に入った手術データベース「National Clinical Database」(以下、NCD)。国内で実施された手術・治療・剖検情報を収集し、国内で発生している疾患の種類や発生数、患者数、術後経過など臨床現場の医療情報を体系的に把握することができます。最新の症例データの登録状況と利活用の具体例、さらには医療現場へのインパクトと今後の展望についてNCD代表理事の岩中督先生に伺いました。

最新の施設参加状況と症例データの登録件数を教えてください。

岩中(敬称略) 国内の5,000以上の施設が参加し、毎年150万件近くの症例データが登録されています。施設数は初年度と比較して1.5倍になり、登録データは2017年までの7年間で約1,000万に達しました。これほど大規模な臨床データベースは世界でも類を見ないものです。

症例登録件数をここまで増やすことができた要因は何でしょうか?

岩中 最大の要因はNCDが専門医制度と連動していることです。外科系の専門医制度は元々、3階建てです。たとえば、食道外科の専門医になるためには、1階の外科専門医、2階の消化器外科専門医を経て、3階の食道外科専門医をとることができます。NCDができる前は、この3階建て構造のそれぞれがバラバラに動いていました。そのため、専門医を更新するためには、異なるタイミングで毎回申請のための症例に関する書類をそろえる必要があったのです。しかし、NCDの運用が開始されてからは、より上層の専門医を更新する場合は下層も連動して更新されることとなり、経験手術症例はNCDで一括管理されているため、申請する本人も審査する側も手間が省けるようになりました。これは結果的に現場の外科医の負担軽減につながっていると思います。

また、もう1つの要因として、医療機関のNCDに対する信頼が徐々に高まり、登録施設数・登録診療科数が増加し、領域の幅も広がったことが挙げられます。登録診療科数は2018年時点で1万を超えています。近年では、「NCD登録施設であることが、適切な医療を提供している施設であることの証明になっている」という評価の声もいただいています。

データ入力の負担については問題にならなかったのでしょうか。

岩中 NCD運用開始当初は、医師がすべてデータ入力していたので、「忙しい外科医に夜な夜なデータを入力させるなんてとんでもない」と講演の場で苦言を呈されたこともありました。しかし、2年前にNCD施設の若手医師約150人に対して、 NCDのデータ入力について聞いたところ、自ら入力していると答えたのは6 ~7人だけでした。近年では医師事務作業補助者などがデータ入力を代行することで医師の負担は軽減されているようです。

データの利活用について、過去8年間で変化はありましたか?

岩中 最近は、NCDが行政利用されるようになっています。某大学病院での腹腔鏡下肝切除術の事故を契機に2016年診療報酬改定で腹腔鏡下肝切除術と膵頭十二指腸切除術を認める際に、NCDに術後合併症も含めたレジストリを作り、適切な症例に対し安全な手術が行われているかどうか監視・検証していくことが決まりました。NCDによる術後死亡率等の予測値と比較して実績が著しく不良な施設があれば学会の監視が働くようになっています。

また、ロボット支援手術に関しても診療報酬を算定するためにはNCDに症例情報を登録することが条件となっています。現在、ロボット支援手術の診療報酬点数は腹腔鏡手術と同じ点数ですが、今後データが蓄積されそれらを分析することで、腹腔鏡手術より優越性が示されれば点数が引き上げられる可能性もあるでしょう。

患者さんや医療現場へのNCDデータの影響についてはいかがですか?

岩中 主な術式の手術データはほぼ網羅できていますので、術前の患者情報と術式から術後の死亡率や入院期間などの全国平均値が算出できるようになっています。患者情報を術前に入力すれば、担当患者が術後にICUに何日入院する予定で、1ヵ月後の生存確率が何%であるか予測することができます。その予測値を使って、術前に患者にその内容を伝えたうえで、手術の同意を得ることが可能になりました。
 また、参加施設のさまざまな指標のベンチマーキングもしています。このフィードバックにより、参加施設は自院の位置づけや特徴がわかるようになりました。たとえば、ある手術の全国平均の死亡率と自院の実際の死亡率の比較から自院の医療水準を知ることができます。同時に、自院の患者データ一覧と全国のデータを比べることにより、「自院には高齢患者が多い」、「循環器疾患の合併症を有している患者が多い」、などといった患者の特徴も把握できます。自院の成績から弱みがわかり対策をすることで、医療の質改善に必然的につながるでしょう。

臨床研究へのNCDデータの活用はどのような状況ですか?

岩中 新しい医療技術や医療材料の第4相試験については脳神経外科領域や心臓血管外科領域においてNCDが多くを担っています。NCDを利用するとコストを非常に低く抑えることができます。NCDには基本情報がすでに入っているので、新たに医師にケースレポートを書いてもらう必要がなく追加項目の情報を入力するだけでよいため、企業にとっても現場にとっても手間や時間を削減できるメリットがあるのです。

NCDを生かして今後どのような臨床研究が期待されますか?

岩中 複数領域にまたがる分野の追跡研究ができるようになればよいと思っています。たとえば、「胃がん手術をした患者は、術後の食生活改善により心筋梗塞の発生率が低減するのか」といったようなクエスチョンに答える研究です。将来的に医療マイナンバーがNCDで利用できるようになれば、施設が異なっても患者データが追跡できるようになるため、このような研究を実現することができるようになるかもしれません。さらにはDPCデータとNCDデータが突合できるようになれば、経済性なども含めたより幅広い分析ができるようになると思います。

これからの課題についてはいかがでしょうか。

岩中 データを提供してくださっている現場の外科医の方々の労力に見合ったものを還元しきれているかというとまだ十分でないと考えています。現場の医師から医療の質向上につながると実感してもらえるフィードバックができるよう、より一層工夫をしていきたいと考えています。

今後の展望について教えてください

岩中 NCDは医師の卒後教育のアウトカム評価に使えるのではないかと考えています。たとえば、「ラーニングカーブが手術何例ほどで上がるのか」といったことがわかってくれば個々の医師の成長を評価することができます。また、「ハイボリュームセンターでは、ラーニングカーブの上りが早いのか?」「ラーニングカーブに施設差はあるのか?」「胃がん手術のラーニングカーブの平均は?」などの疑問も明らかにすることが可能になります。こういったデータがそろえば、指導者の主観でなく科学的に考えることができる若手を早く育てられるようになるでしょう。それらの分析を基に、若手外科医をより早く一人前にすることについて、科学的根拠をもって学会に提案していければと考えます。

写真:岩中 督先生

岩中 督先生

一般社団法人 外科系学会社会保険委員会連合(外保連) 会長 /
一般社団法人 National Clinical Database 代表理事 /
埼玉県病院事業管理者

Perspective

医師の残業上限時間規制案、「年間1900~2000時間」提示

医師の働き方に関する改革検討会の議論が大詰めを迎えている。提示された医師の残業時間の規制案の内容とは?

時間外労働上限時間数案

厚生労働省の「医師の働き方に関する改革検討会」は1月11日、2024年度から診療に従事する勤務医に適用される罰則付きの残業時間の上限水準について原則案および特例に当たる2案を含む以下の3つのパターンを示した。

それぞれに対して月当たりの時間外労働時間数を超える者に対する労働時間短縮や睡眠時間確保のためのインターバル確保などの追加的健康確保措置が求められるが、B)・C)については確実に実施されることを適用の要件とすることが提案されている。この案を基に本年3月のとりまとめに向けてより詳細な時間数・取り組み支援スキームに関する議論が続けられる。

間外労働年1,900時間程度≒週40時間の

写真:裵 英洙 先生

著者プロフィール
裵 英洙

病院経営コンサルティング会社
ハイズ株式会社代表
(医師・医学博士・経営学修士)

追悼 当会理事(日本対がん協会常務理事)関原健夫氏

当会理事で日本対がん協会理事の関原健夫氏が 2018年11月24日、虚血性心疾患の為、永眠されました。
享年 73 歳。同氏は第一線で働き続けながら患者の立場でがん対策をはじめとする医療政策の策定に貢献されました。当会発足当時より理事にご就任頂き、市民講座やきみが外科医になる日セミナー等においても患者の立場から外科医の重要性を訴えるなど、当会の活動に多大なるご協力を賜りました。ここにご冥福をお祈り申し上げます。